トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅音の迷路にはまり込んでしまった(Dynaudio/C4)

音の迷路にはまり込んでしまった(Dynaudio/C4)



 ひょんなご縁から


 ダイナミックオーディオ5555の島店に、ウイルソン/システム7の専用スパイク「RK-WS」を紹介に上がった時にお逢いしたお客さんです。私の名詞を差し上げますと、その裏にカタログ代わりに印刷してあるインシュレーターに目が止まったようです。

 『この最近買ったCDプレーヤーに付けてみたいんだけど、音の変化の具合はどうなんでしょう?』。

 こんな質問を頂きました。

 何より一度試聴してみられることをお勧めしました。

 機種を伺いますと、『目の前にあるこれと同じです』とエソテリックのプレーヤーを指差されました。「これはですネェ、面倒でも底蓋を開けて、今付いてある純正のインシュレーターをスパナで外してからでないと、上手く音の良い場所に設置するのは難しいです」。

 「よろしかったら、近くに仕事が出来たついでにでもお手伝いしましょうか?」。

 『お願い出来ますか?』。

 こんな調子で一週間後くらいにお伺いする事になりました。

 何があってもいいように、インシュレーターとケーブル類を一式車に積み込んで出発です。


 機材の持つ力を引き出せていない典型的な例


 スピーカーはディナウディオのC4と教えて頂いてたのですが、部屋に通されて初めて聴かされた音にはビックリしました。何にビックリしたかと言いますと、私より背の高い大型スピーカーから出ている音とはとても信じられないようなこじんまりした音なんです。

 いくら鳴っていた曲が小編成のものとはいえ、本来の姿とは程遠いのです。

 「意識してこのように禁欲的であり、抑制した鳴らし方にしておられるのですか?」。


 『そんなつもりは決してないのですが、良かれと思ってあれこれやった結果がこの音なんです』。

 コンポーネントに近づき、何が原因しているのかチェックです。

 ケーブルは明らかに自作と見られ、お世辞にもきれいな仕上がりではありません。

 「これらのケーブルはどちらかのお店の特注なのですか?」。

 『いいえ、銀の単線で自分で作った物です』。

 触ってみると2〜3ミリはありそうな太い単線です。こんな線を使っているにもかかわらず、力のない弱い音になるのは普通では信じられません。本来この手の単線を使うと引き締まった力強い音がしなければなりません。

 結論は、一言で言って「エネルギーロス」です。


 振動のぶつかり合いと迷走


 各コンポの下には、人口大理石、セラミック、金属、樹脂、石、木等々、無数の挟み物があります。買った物を大切にするあまり、全部使ってしまう。全ては足し算ばかりで、引き算が苦手のようです。それらの振動のぶつかり合いと迷走が原因で、次第に力が抜けて行くのです。何足もの靴を重ね履きしているようなものですから、これでは大地をシッカリ捕まえることが出来ません。これをどこから処置したらよいのか?、しばし考えます。

 音を良くする為に私のやる事は決まっているのですが、肝心なのはどうやってお客さんに理解して貰うかです。全ては良かれと思ってやった事ですから、何をやっても否定する事になります。私にとっては音を良くする事よりも、言葉によってお客さんに不愉快な思いをさせない事のほうが遥かに難しいのです。


 機材とラックとの間には性能の良いインシュレーターのみで決める事


 私がやりたい事の順番よりも、ご本人がプレーヤーにインシュレーターを試してみたいと仰られたのが事のきっかけですから、今日の場合はそこから始めるのが一番良い方法のようです。その効果を正しく認識して頂く為にも、もろもろの物を外し、素直にラックと機材の間にはローゼンクランツのインシュレーターだけにします。

 その結果、音に伸びやかさが出てきましたが、まだまだ健康を取り戻すには程遠い状態です。それも、ローゼンクランツのインシュレーターの中でも、一番エネルギーを取り出せる最強の物をもってしても、わずかな向上しか見られないのですから相当重症のようです。使ったのは1個35,000円のハイエンドモデルBIG BOSSです。

 スピーカーのスパイクにインシュレーターを履かせてみたいというのも、もう一つH.Sさんのご要望でもありました。人口大理石のプレートを外し、フローリングの床に今旬のポイントベイシーで受けてやります。思った通り音がローエンドまで伸びて来ました。それに伴って高音域にも透明度が出て来たのです。しかし、本来の実力からするとまだ40点位でしょうか。

 音の変化とお客様の好みとする音の方向性にずれがないか第一回目の確認です。

 「如何でしょうか?、このような変化ですが・・・」。

 『大丈夫です!、このまま進めて下さって』。

 『希望とする音の方向に向かっています』。

 パワーアンプに目をつけます。ご自分で作られた厚みの違いのあるジルコンサンド入りボードが2枚と大理石を三段履きにしてあります。また、アンプの底部には鋳鉄製の足をネジ止めし、石と金属の干渉で生まれるストレス音を避ける為に入れたのでしょう。比較的柔らかい樹脂のマットを間に挟んであります。ここが一番パワー不足の原因を成していると見ました。


 私が必要と見たのは薄い方のボードのみです。その他の物は外してシンプルな状態にして聴いてみます。これは効きました。やっと効果が現われ始めたのが、この時点でクッキリと見えました。今日の相手は強敵でした。ここまで来ればもうこちらのもので、これから打つ手はドンドンと効果が出てくるでしょう。

 振動に関する問題はここらあたりで一旦止めようとも思いましたが、もう一息状態を引き上げてからケーブル周りに入った方が良さそうですので、プリにBIG BOSSを入れました。計算通りの効果となって出てきます。バイオリンは最初に聞いた音とはもうまるで別物のように流れるように歌い始めました。大きな違いは強弱や緩急の表現がうんと伝わって来るようになった事です。


 これからが腕の見せ所です


 やっとスピーカーの音の良いポジションを探そうという気になりました。スパイク受けはバフ仕上げですので、重たいスピーカーも楽々と滑ります。良く出来たスピーカーですから、ちょっと前後に動かしただけで何の迷いもなくバランスの良い音を見つける事が出来ます。

 こうしたトールボーイタイプのスピーカーは幅と高さの寸法比に大きな開きがあり、音の振幅が長い関係上、湿っぽく重たい感じの低音が特徴です。なのにこのC4は良く出来ていて、軽やかな低音と適度な重量感の美しいプロポーションの音を聞かせてくれるのです。想像以上のポテンシャルを感じます。60点ぐらいまで来たでしょうか、こうあってくれるとやる気になれるんですね。


 天と地ほどの差に驚いたデジタルケーブルの性能


 ケーブル類もこの度一新したRGBシリーズをほとんど持って来ております。一番簡単で効果がハッキリ現われるところといえばデジタルケーブルでしょう。ちなみに今付いているのは途中に箱物を挿入した8万円強のベストセラー品です。先ずは小手調べに23,000円のDIG-B5に差し替えて聴いてみます。曇り空から一気に晴れ渡った青空に変わったような変化です。

 気を良くした私はその上のDIG-B7、DIG-RGB7を他社製と比べるには格好の機会と、まるで製品のテストをこの場を借りてするがごとく繋ぎ変えて試したのです。それもそのはず、これらのデジタルケーブルにおいてはローゼンクランツの試聴室から外に出て聴くのは初めてだったのです。その結果、このディナのC4はとてつもない能力の持ち主だったことが判明したのです。

 この変貌ぶりは数多くクリニック訪問をこなしてきましたが、改善度ベスト3に入る能力開発となったのです。デジタルケーブルの差恐るべしです。自分で作ったケーブルがこれほどまで凄いとは我ながらビックリです。デジタルケーブルの場合1本で済みますから、大変コストパフォーマンスが高いものです。特に大元のデーターを扱うところですから、少しの改善でも先で大きな差になって現れますので大変重要なところです。

 20年以上も前の事ですがCDが発売される前に噂されたのは、デジタル時代になれば音の違いが出なくなるから、評論家の仕事はなくなるのではないかと、まことしやかに話ししていた時期があったのです。データーのやり取りだけしかしないデジタルケーブルで、ここまでの音の違いが出るなんて私自身もビックリ仰天です。
 
 気になるお方は一度是非ご試聴下さい。


 正しく伝えて欲しい評論


 それにしても、この音を専門誌や販売店が褒めちぎったのでは、消費者はたまったものではありません。少なくともこのH.Sさん宅では、好みの問題とかの話ではなく、歴然とした性能差となって音の違いが出ました。仮にも、このケーブルが数あるデジタルケーブルの中で秀でているのであれば、他のライバル達はランク外ということでしょうか・・・?。この結果を目の当たりにしてH.Sさんは次のようにおっしゃいます。

 『評論化諸氏はどの製品も良く褒めているのだが、何をしても音は変わるし、あげくの果てには迷路にはまり込み、何をどうしてよいやら解決策が見つからないのが現状です』。『今回のように、カイザーさんのような音のプロの方に自分のシステムを見て貰うのは初めてなんですが、あまりもの音の変化に驚きの連続です』。


 クリニック訪問は本当に勉強になります


 デジタルケーブルのところで飛躍的にシステムの音が向上しましたので、次から次へと欲が出てきます。施主さんに負けないほど私の方がその気が強くなったように思えます。それぐらい今日のオーディオクリニックは面白いのです。またこの先、東海地方で同じようにディナのスピーカーをお持ちの方のクリニックが2件控えているので、そのデーター取りにもなると思うから余計でもやる気になるのです。こうして場数を踏む事が本当に力が付くんですよ!。しみじみそう感じます。


 電源ケーブルの使いこなし


 機材の数が多くなればなるほど、ケーブルの引き回しや、ACケーブルの使いこなしが大変重要になってきます。ローゼンクランツのベストセラーであるAC-1S(8NLimited)の後継モデルにあたる、AC-RL(Limited)1.8kaiser 120,000円をトランスポートとプリ に 繋いで聴いて頂きます・・・。

 これは全く効果が出ません。却って悪くなった部分もあるようです。上流を良くしても下流の流れが悪いとこうなることが多いです。これは例え良い製品であっても、使いこなしが上手く出来なければ、折角買った物も宝の持ち腐れになることを解って欲しかったので敢えて試みた部分もあるのです。

 それにしても、これなら繋いだケーブルの性能が本当に悪かったような受け止め方をされても仕方がありません。最後のパワーアンプの抜けを良くしておかないと、音が詰まってしまいます。混雑した中で急いで歩こうとすると、前の人のカカトを踏みそうになりますよね、丁度そんな感じです。ステレオはテンポ!です。足並みを揃える事が一番重要なんです。

 かくしてACのレッドラインリミティッドはパワーアンプに繋ぐ事にします。「これは凄いことになりましたですネェ!」。さきほどと同じケーブルとは思えないほど素晴らしい音になりました。スピーカーが水を得た魚のように活き活きと鳴り始めました。繋ぐ所の違いだけで、こんなにも音の差となって現われるのですから恐ろしいものです。

 強い音、きれいな音、優しい音、瑞々しい音、とにかく音の種類が一杯増えたんです。


 最後の仕上げはスピーカーの加速度組み立て


 この最近驚くことがあります。それは著名なメーカーのスピーカーの品質管理がすごく進んで来ているのです。私が数年前からマグネットのエネルギーの方向性について力説しておりますが、今日のディナウディオC-4も6個のユニットの方向性が完璧なんです。過去に何度もディナのスピーカーを調整しておりますが、こんなの初めてです。着実に研究がなされているのでしょう。それに気がついたのは約2年ほど前からです。

 これが出来た後、高級スピーカーに要求されるのは、各スピーカーユニット間のトルク管理です。これさえ出来たら本当に素晴らしいスピーカーに変身するでしょう。でもこればっかりは、ピアノ調律師でも相当訓練しない限り不可能に近いと思います。何故ならピアノの調律といえども、3本ある弦の両端をフェルトで鳴かないように鳴き止めをし、その中央の弦を鍵盤で叩き、単音を聴いて合わせていく方法です。
 
 それがスピーカーとなると、3つも4つもあるユニットの音の繋がりを同時に聞き分け、まるでフルレンジユニット1個であるかのようにまとめ上げなければなりません。そしてその作業の中で一番難しいのは、そのスピーカーにとってのエネルギーの核となるポイントを何処に持って行くかを決定する判断力に掛かっています。ここまでのこだわりになると、誰にも未だチンプンカンプンだと思います。私の加速度組み立てを施したスピーカーの音を聴く機会が増えるにしたがって、その素晴らしさは徐々に広まって行く事でしょう。


 そんな処置をした後のC4はまるっきり別のスピーカーに生まれ変わったのです。このクリニックレポートをお読みになって、加速度組み立てにご興味を持たれた方はいつでも気軽にご相談下さいませ。


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